移動は量から質の時代へ移行したと考えられます。つまり、移動が絶対でなくなった今、移動という選択は個々人の価値観の反映となり、その一方で移動行動それ自体が充実したエクスペリエンス(体験)になっていくのではないでしょうか。新しい時代の新しい移動がいま生まれようとしているようです。
移動が当たり前ではなくなった今の時代に、いかに移動の質を高め、「新しい移動」を生み出すことができるでしょうか。これは大きな社会課題と言っても過言ではありません。カギを握るのは移動に消極的な今の若者と、彼らが肌身離さず手にしているスマートフォンかもしれません。
社会人の移動実態を民間企業が調べたところ、1カ月の外出回数は20代が最も少なく、70代を下回るとの結果が出た。「自分は引きこもり」と認識する人も20代は6割を超えた。担当者は「インターネットやスマートフォンが普及し、買い物など多くのことが自宅で完結できるようになったため」と分析している。
調査からは、若い世代ほど自宅にいることを好む意識もうかがえた。「一日中家の中で過ごせる方だ」に「非常に思う」とした回答は20代が35%、30代も33%だった。「自分はどちらかと言えば引きこもり」は、「まあ思う」を合わせると20代は62%に上り、30代も50%を超えた。
「趣味はインドア派」は20代が72%で、全体を6ポイント上回って最多。対照的に70代は57%で、アウトドア派の割合が最も高かった。「休日はなるべく外出する」も20代は40%で、30代より9ポイント少ない。「買い物はネット派」は30代(54%)、20代(52%)の順に多かった。
担当者は「仕事から授業、娯楽まであらゆることを自宅で行う動きが今後、飛躍的に拡大する可能性があり、社会の停滞につながり得る」と指摘。「移動が必要不可欠でなくなった今、移動で得られる喜びや価値をいかにして高めるかが課題となる」と話している。
20代は70代より移動が少ないことが判明。 ネットが加速させる「ファーストプレイス化」と「非移動化」。移動活性化のカギを握る「スマートフォン」 ~「Move実態調査2017」レポート~
20代は70代より移動が少ないことが判明。
ネットが加速させる「ファーストプレイス化」と「非移動化」。
移動活性化のカギを握る「スマートフォン」
~「Move実態調査2017」レポート~
株式会社ジェイアール東日本企画(本社:東京都渋谷区、社長:原口 宰)のプロジェクト組織、Move
Design Lab(ムーブ・デザイン・ラボ/MDL/最終頁参照)は、生活者の移動行動の実態を把握するための
調査「Move実態調査2017」を今年3月に実施しました。
調査結果から読み取ることのできる移動のいまとこれからをレポートいたします。>主なファインディングス
1. 1か月の移動回数は全国平均で43.6回。20代は70代よりも移動回数が下回る
2. 移動のピークは30代後半。高齢層はリタイアによる移動減を他の移動で補てんする傾向
3. スマホネイティブの若者に見られる“家好き”傾向。
20-30代の半数以上が自らを“ひきこもり”と認識
4. スマホ世代が生み出す「新しい移動」。移動と消費はシームレスへ国土交通省の調査によると、以前から生活者の外出行動は減少していたものの、近年その傾向が顕著
になりつつあります(次頁参照)。その最大の理由は言うまでもなくインターネットおよびスマートフォンの普及
にあります。SNSやネットショッピングなどの浸透により、あらゆることが自宅にいながらにして行なえるように
なったことが移動減に拍車をかけているようです。ここではこうした現象を「ファーストプレイス化」と呼ぶこと
にします。従来であれば会社や学校といった「セカンドプレイス」や、その他の場である「サードプレイス」で行
なわれていることが、「ファーストプレイス」つまり自宅で行なおうとする動きが、今後飛躍的に拡大する可能
性があります。これは労働、教育、消費、医療、娯楽などあらゆる領域においてあてはまることです。
ファーストプレイス化により、世の中は徐々に「移動が当たり前ではない社会」へと移行し、結果的に生活
2017年9月28日
2 / 7
86.3 85.4 84.6 83.6 85.8 80.9
2.6
2.5
2.3 2.3
2.4
2.2
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
0
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40
60
80
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1987 1992 1999 2005 2010 2015
平日
外出率 ※1 トリップ数 ※2
69.5 67.4 66.7 64.7 71.3
59.9
2.1
2.0
1.9 1.9
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1987 1992 1999 2005 2010 2015
休日
外出率 トリップ数
出典:国土交通省「平成27年度全国都市交通特性調査(速報版)」 ※1「外出率」=調査日に外出していた人の割合(単位:%) ※2「トリップ数」=1人が1日のうちに目的をもって動く回数(トリップ数)の平均(単位:回)
【グラフ】 生活者の外出率およびトリップ数の過去推移
者が移動しなくなる「非移動化」が進行する可能性も考えられます。ファーストプレイス化が引き起こす「非
移動化」は、長期的に見ると様々な面で社会全体の停滞につながっていくと私共は考えております。今回の調査結果から、移動は量から質の時代へ移行したと考えられます。つまり、移動が絶対でなくなっ
た今、移動という選択は個々人の価値観の反映となり、その一方で移動行動それ自体が充実したエクス
ペリエンス(体験)になっていくのではないでしょうか。新しい時代の新しい移動がいま生まれようとしている
ようです。
移動が当たり前ではなくなった今の時代に、いかに移動の質を高め、「新しい移動」を生み出すことができ
るでしょうか。これは大きな社会課題と言っても過言ではありません。カギを握るのは移動に消極的な今の
若者と、彼らが肌身離さず手にしているスマートフォンかもしれません。
jekiMDLでは今後も生活者の変わりゆく移動を考察し、移動の未来について情報発信してまいります。
(次ページ以降は調査結果の詳細です。あわせてご参照ください)
3 / 7
37.3
49.1
45.7 45.7
42.1 40.8
44.6
42.2 44.2 44.6 43.0 42.4 42.0 44.5 41.9
0.0
43.6
20 代
30 代
40 代
50 代
60 代
70 代
既 婚
未 婚 / 離 別
北 海 道 ・ 東 北
関 東
中 部
関 西
中 国
四 国
九 州 ・ 沖 縄
1. 1か月の移動回数は全国平均で43.6回。 20代は70代よりも移動回数が下回る
• 生活者の1か月あたりの移動回数は全国平均で43.6回でした。単純計算で1日あたり1.4回移動してい
ることになります • 20代の移動回数は37.3回で、70代の40.8回を下回っていることが分かりました。学校や勤務地など必
ず行かなければならない場所のある若者の状況を考えると、やや驚きの結果と考えられます • 居住エリアで移動回数に大きな差は見られませんでした。住む環境で移動回数が大きく異なるというこ
とはないことが推測されます
全国平均 43.6回/月
【属性別 月の移動回数(回)】
年代 未既婚
月の移動回数(回)
居住エリア
20代の移動回数は70代を下回る
4 / 7
2. 移動のピークは30代後半。 高齢層はリタイアによる移動減を他の移動で補てんする傾向
0
10
20
30
40
50
60
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70
移 動 回 数 ( 回
)
年齢
総移動回数/月(2nd+3rd) 2nd移動回数/月 3rd移動回数/月
年齢別 月の移動回数(単位:回)
• 生活者の移動回数は就職、結婚、出産、育児などのライフイベントが続く30代まで徐々に増えていき、
30代後半をピークに緩やかに減少へと転じることがわかりました • 定年まで大きく変化のない「2nd移動」(学校や職場への移動)にくらべ、それ以外の「3rd移動」のほうが
年齢によって上下することがわかりました • 3rd移動が多いのは30代後半と60代であることがわかりました。前者は前述したライフイベントの影響が
大きく、後者は定年・リタイアにより時間的な余裕があることに起因していると推察されます • 高齢者の総移動回数が大きく減らないのは、定年・リタイア等によって減少する2nd移動を、3rd移動で
補てんしているためであると読み取れます
first place
自宅
second place
職場/学校
third place
それ以外の場
※「2nd(セカンド)移動」と「3rd(サード)移動」
自宅をfirst place(第1の場)、職場や学 校をsecond place(第2の場)、それ以外 の場をthird place(第3の場)とし、第2の 場への移動を「2nd(セカンド)移動」、第3 の場への移動を「3rd(サード)移動」と呼 び、それぞれを分けて分析しています
2nd移動
3rd移動
5 / 7
11.2
16.5
20.5 26.824.9 22.5 26.1
35.0
17.2
19.7
25.1
32.7
11.0
18.8
23.1
29.0
6.5
13.3
16.1
25.7
6.0
13.6
16.9
22.7
2.8
10.8
16.1 15.5
自 分 は ど ち ら か と
言 え ば
「 ひ き こ も
り
」 だ と 思 う
外 出 し な い で い い
な ら な る べ く 家 に
い た い
家 に い る の が 好 き
一 日 中 ず っ と 家 の
中 で 過 ご せ る ほ う
だ
全体 20代 30代 40代 50代 60代 70代
「自分はどちらかと言えば「ひきこもり」だと思う」(単位:%)
39.9
62.3
50.2
45.5
37.9
27.5
16.7
11.2
24.9
17.2
11.0
6.5
6.0
2.8
28.7
37.4
33.0
34.5
31.4
21.5
13.9
34.9
27.7
31.3
35.0
38.4
37.7
38.4
25.3
10.0
18.6
19.5
23.7
34.8
44.9
0% 50% 100%
全体
20代
30代
40代
50代
60代
70代
非常にそう思う まあそう思う あまりそうは思わない 全くそうは思わない
自宅に対する意識
(そう思う計)
※top1「非常にそう思う」と回答した割合(単位:%)
3. スマホネイティブの若者に見られる“家好き”傾向。 20-30代の半数以上が自らを“ひきこもり”と認識
• 若い層であるほど家にいることが楽しいと感じる傾向にあり、20代にいたっては3人に1人以上が「一日
中ずっと家の中で過ごせる」と回答しました。生まれた時からインターネットおよび携帯端末があり、屋内
で時間を過ごすことに慣れている20代の生活価値観が垣間見られる結果となりました • 「自分が“ひきこもり”だと思う」と回答した人は全国で4割にのぼりました。本来の「ひきこもり」の定義※
には当てはまらない生活者でも、その多くが自らを“ひきこもり”と認識していることがわかりました。
特に20代は6割超と非常に高く、30代でも5割が自分を“ひきこもり”と認識していることがわかりました
※厚生労働省では「ひきこもり」を「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」と
定義していますが、本項は、生活者の「意識」を尋ねたものであり、厚生労働省の定義する「状態」を調査したものではありません。
6 / 7
32.0
25.6 25.3
15.0
43.5
39.2
36.2
23.1
44.5
35.8 33.8
20.3
38.8
31.0 30.5
16.0
33.9
26.8
24.0 15.819.1 13.8 15.5 10.0 12.7 7.7 12.1
5.3
全体 20代 30代 40代 50代 60代 70代
37.6
29.7 28.2 26.4
14.1 14.0 12.0 11.8
5.4 3.9
一 人 に な れ る 時 間
休 息 ・ 癒 し の 時 間
思 考 を め ぐ ら す 時
間
社 会 や 世 の 中 の 動
き を 知 る 時 間
娯 楽 に 興 じ る 時 間
家 族 や 友 人 ・ 知 人
と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ
ン を と る 時 間
新 し い も の と 出 会
え る 時 間
ネ ッ ト シ ョ ッ ピ ン グ
を す る 時 間
自 分 を 磨 く 時 間
仕 事 を す る 時 間
スマホ等を使うようになって 移動の時間が楽しくなった
その場で目撃したものは 写真に撮りSNSなどで シェアする
スマホ等の普及で、これ までに行かなかったような 場所に行くようになった
4. スマホ世代が生み出す「新しい移動」。移動と消費はシームレスへ
• 20-30代に“ひきこもり”意識が見られる一方で、その若者からスマートフォンを契機とする「新しい移動」
の兆しを読み取ることもできます • 「知らない場所に来るとスマホで調べる」と回答した人は全体で3割、20-30代では4割強に達します。ま
た、スマホの普及によって「これまで行かない場所に行くようになった」「移動の時間が楽しい」と回答した
人も若い世代中心に多いことがわかりました。このことから、移動活性化の主役は、スマホを使いこなす
ことで「新しい移動」を生み出すポテンシャルを大いに秘めた若年世代と考えられます • 「自分にとっての移動時間」で最も高かったのは「一人になれる時間」。「ネットショッピングをする時間」と
捉える人も1割強存在し、移動と消費のシームレス化がうかがえます
スマホ普及で変わる移動の価値
スマートフォンが生活者の移動を変える
知らない場所に来るとス マホでいろいろと調べる
※「自分にとっての移動時間」としてあてはまるもの(複数選択、勤務者による回答)(単位:%)
※「あてはまる」と回答された割合(単位:%)
1割強は移動中に ネットショッピングをしている
7 / 7
jeki 「Move Design Lab(ムーブ・デザイン・ラボ/MDL)」
変わりゆく生活者の移動行動の実態を考察し、移動の未来を見据えなが
ら、企業や社会の抱える様々な課題解決への貢献を目指す、株式会社
ジェイアール東日本企画のプロジェクトチーム。2017年9月より始動。
MDLでは未来を指し示す新しい移動を「Move(ムーブ)」と呼び、さまざま
なアプローチを通じたMoveの活性化をミッションに掲げます。生活者の移動
行動の実態を把握し、新たなMoveの兆しを見つけその拡張を模索していく
こと、あるいは革新的な技術やサービスを通じ、移動シーンでの新たな体験
価値の提供について模索していくこと、など様々なテーマを想定していま
す。リアルなフィールドでの実験や新規ビジネスの開発なども視野に入れ、
精力的に活動してまいります。
MDLは様々な経歴を持つ社員で構成されており、マーケティング、プラン
ニング、リサーチ、メディアなどメンバーそれぞれのバックグラウンドを活かし
て活動を行ないます。また同時にオープンイノベーションを意識し、外部の
企業や団体等との共同研究や実験、ソリューション開発等にも積極的に取
り組む予定です。
MDLの活動は弊社ウェブサイト等で積極的に公開することで、移動の観
点から社会の活性化やイノベーションに貢献してまいります。
「Move実態調査2017」調査概要
調査主体 株式会社ジェイアール東日本企画 Move Design Lab(MDL)
調査手法 インターネットアンケート調査
調査期間 2017年3月7日~3月8日
調査エリア 全国
調査対象者 20~79歳の男女(学生除く)
サンプル数 2,200