機能美の塊「フォント」が持つ本当の力 ― 米モノタイプが日本語フォントを開発

ニュース コメントはまだありません

世界最大のフォントメーカー、Monotype(モノタイプ、米マサチューセッツ州)が日本語フォント「田鶴が音(たづがね)角ゴシック」を開発した。約130年の歴史があり2万もの書体を抱える老舗が、日本語フォントを設計したのは初めて。フォントは普段の生活でそれほど気に留めない。しかし生みの親のデザイナーは、公共サインなどに使うため汎用性に重きを置きつつ、独自の見やすさや美しさを追求する。その一文字一文字が街の雰囲気や企業イメージを決める大きな力を持つ。

「おもてなし」まだまだ 日本のサイン
 世界最大手のフォントメーカー、Monotype(モノタイプ、米マサチューセッツ州)が約130年の歴史で初となる日本語フォントを開発した。日本の案内やサインに目立つ不親切さの解消へ「おもてなし」を可能にする書体として提案する
 「たづがね角ゴシック」はドイツを拠点にするモノタイプのタイプディレクター小林章氏らが中心となり開発した。日本では一般にフォントはまず日本語書体ありきで、欧文書体を合わせる。今回は海外の空港や鉄道、道路標識で使われる「ノイエ・フルティガー」にはじめから合うようにし、日本語と欧文がバランス良く並ぶようにした。

 

「おもてなしの国」にふさわしいフォント

「おもてなしの国といえるのか。フォントだけの問題でないが、あまりにぶざまだ」と小林氏は言う。日本で首を傾げたくなる標識やサインがフォントの第一人者からみると多いためだ。例えば、日本語の地名表記や案内の幅に合わせるため、外国語を無理やり小さなフォントでぎっしり並列しているのもその一つ。逆に、欧文による文章で収まりが悪い空白があるのも往々にしてあるという。

「たづがね角ゴシック」はこうした問題を解決できるよう工夫した。「130年の歴史を持つフォントメーカーの覚悟。日本人だけでなく外国人にとっても読む心地よさ、情報の伝わりやすさを考えている」と小林氏は語る。インバウンド需要にわく国にふさわしい街並みをつくるフォントとして提案しており、公共交通機関が採用に動いている。

一流の製品は一流のフォントから

そもそもフォントはどうつくるのか。スケッチから始め、パソコンで文字を構成する線や輪郭を手作業で調整していく。5~6字の単語の塊をつくり、フォント全体としてのデザインに一貫性を持たせる。もちろん縦棒、横棒、はねなど見本になる1画1画をあらかじめ用意し、それらを組み合わせるなどで作業を効率化している。それでも日本語は漢字、ひらがな、カタカナと多岐になり、「たづがね角ゴシック」は膨大にある。職人技でつづられ、3人がかりで約3年かかった。「気にされないフォントでも一つ一つ丁寧につくる。だからフォントからブランドや価値が生まれる。一流の製品をつくるなら、フォントから一流にみせないといけない」と小林氏は主張する。

海外では企業が独自フォントを持つ。モノタイプは米IBM、独SAP、スウェーデンのカジュアル衣料大手へネス・アンド・マウリッツ(H&M)、中国インターネット大手の騰訊控股(テンセント)など向けにフォントを開発している。「気づくのは1万人に1人もいないが、フォントによって企業が伝えたい機能や高品質のイメージがしっかり浸透していく」小林氏は語る。

日本企業では2012年にソニー向けに「SST」と呼ぶフォントを供給した実績があるが、数少ない。製品、広告、説明書に使うため93言語を対象にした。2018年3月期に20年ぶり過去最高の営業利益となる見通し。たかがフォントといえばそれまでだが、フォントへの一途(いちず)なこだわりがグローバル企業としての復活を実現させたといえる。

関連

コメントを残す